⑧滓引き・ろ過・火入れ/⑨貯蔵・瓶詰
搾り除去しきれなかった細かな不純物を取り除くのが滓引き(おりひき)・ろ過です。
10日程酒を置き、細かな固形物を沈殿させ、上澄みの部分を取り出す工程を滓引きといいます。
その後、活性炭やフィルターによりろ過を行うのが一般的です。
この状態ではまだ酵素や微生物が残っているため、貯蔵の時に酒質が変わってしまう可能性があります。そこで酵素の動きを止めるため、酒を60℃前後で30分程度、低温加熱処理を行います。これを火入れといい、火入れを行った酒はタンクに入った状態のまま、数か月間貯蔵されます。しぼりたての酒は角が立っていますが、貯蔵している間に熟成が進むと丸くなり、味がのってきます。
こうして貯蔵し熟成された酒は、殺菌処理のために再度火入れされ、割水して瓶詰され完成します。
ただし商品によっては、あえてろ過や火入れを行わないものもあります。
無濾過
活性炭ろ過を行っていない酒です。醪の香味や日本酒らしい旨みが残るといわれます。
生酒
ろ過を行ったあと、2回の火入れをしていない酒です。瓶のなかで酵素が生きていてフレッシュな味わいを楽しめます。生モノなので、冷蔵保存が鉄則。早めに飲む方が美味しく飲めます。
生貯蔵酒
貯蔵時と瓶詰め前、通常の2回行う火入れのうち、貯蔵時の火入れを行わずに生のまま貯蔵した酒です。瓶詰前の火入れのみ行っています。
生詰め酒
生貯蔵酒は1回目の火入れを行わないのに対し、生詰め酒は1回目の火入れのみをおこない、2回目の瓶詰め前の火入れを行わない酒です。
生貯蔵酒や生詰め酒も、生酒と同様に独特なフレッシュさが持ち味です。
酒造好適米とは
日本酒の原料は米であり、米の良し悪しが酒の品質を大きく左右します。
酒造りに適した米(=酒造好適米)には下記のような特徴があります。
硬く大粒で、心白の比率が高いこと
雑味のもとになるタンパク質や糠が少なく、デンプン質の比率が高いこと
心白とは、米の中心部にあるデンプン質の粗い部分のことを指します。
食用米に比べて細胞組織に隙間があるため、
(1)麹菌が繁殖しやすい
(2)吸水率が良い
(3)酒母や醪の中で溶けやすい
などの良い日本酒ができやすい条件を兼ね備えているといえます。
かつて鑑評会に出品される酒の多くは山田錦を使用したものでしたが、山田錦の産地に限りがある(兵庫・徳島産が高品質といわれる)ため、最近では地元産の米を使用した日本酒造りも盛んになってきました。東京・鹿児島・沖縄を除く全国で酒米が生産されていて、26年度時点で102種あります。収穫量のベスト10は、多いものから山田錦・五百万石・美山錦・雄町・出羽燦々・ひとごこち・秋田酒こまち・吟風・八反錦1号・越淡麗となっています。
銘柄酒米の特徴
米の品種ごとに出来上がったお酒の特徴は、造りの違いによっても変わるため、一概には言えませんが、代表的な酒米の特徴や来歴は次の通りです。
山田錦
良い酛を造るための米として生まれ、発酵が順調に最後までゆっくり進む「突きはぜ」の麹ができる資質を持っているため、種麹の量が少なくて済み、「安心して酒造りができる」として誕生から70年以上にわたり、最高の酒米とされています。味や香りがふくよかで広がりのある酒質になるといわれます。
山田錦は播州山田錦とも呼ばれ、1923年に兵庫県の農事試験場で母に「山田穂」、父に雄町の血統を継ぐ「短稈渡船」を父として人工交配した品種です。
雄町
米がやわらかで溶けやすく、味にふくらみのある濃醇な味の酒になります。100年以上も前に生まれ、現在も残るただ一種の混血のない米で、五百万石をはじめ現在栽培されている酒米の多くがその子孫です。
五百万石
早生でお酒の造りやすさに定評のある酒米です。クセのないすっきりとした味わいの酒になるとされ、機械製麴に適している点が特徴です。新潟県が発祥で昭和50年代には、酒米シェアの50%を占める人気銘柄になりました。山田錦と人気を二分し、東北南部から九州北部まで幅広い地域で栽培されています。
美山錦
東北・関東・中部などで栽培されており、秋田や長野では吟醸酒によく利用されます。長野県の美しい自然の中で生産され、美しい山の頂の雪のような心白にちなんで名づけられました。冷涼な他県のための新しい品種を生み出す親株となっており、子孫に出羽燦々、越の雫、秋の精、神の舞などがあります。
出羽燦々
美山錦の倒伏のしやすさを改良し、耐冷性、玄米品質、千粒重のすべてが美山錦を上回る品種です。吸水性が高く、酒造適性にも優れていて、淡麗できれいな酒ができるとの定評があります。山形県の農業試験場で1995年に開発されました。