⑥醪づくり(仕込み)
麹と酒母を造り終えたら、いよいよ醪(もろみ)づくりです。
「三段仕込み」と呼ばれる手法で3回に分け、4日間かけて仕込みが行われ、日本酒造りの大きな特徴の一つです。3段階に分割して仕込むことで発酵がスムーズに進み、雑菌の繁殖も防ぐことができます。
1日目・・・添え仕込み
小さめのタンクに酒母と仕込み水、麹、蒸し米を入れて混ぜます。この混ぜる工程を「仕込み」と言います。
2日目・・・踊り
2日目は何も手を加えずに休ませ、酵母の増殖を十分に進ませます。
3日目・・・仲仕込み
発酵タンクに移し替え、添え仕込みで用いた蒸し米、麹、水を倍の量加えてさらに仕込みます。
4日目・・・留仕込み
仲仕込みで加えた倍の量をさらに加えて仕込み、完了です。
※上記を略して「添(そえ)・仲(なか)・留(とめ)」と言われます。
このように倍に、倍にと増やしていくため、全体量を把握して仕込みを行う必要があります。
醪は留仕込みのあと、2週間から1ヶ月かけて発酵します。タンクの中では、麹によって米のデンプンが糖化され、酵母がその養分をえさにしてアルコール発酵を行います。
この、糖化と発酵が同時に行われる並行複発酵と呼ばれる方法は、世界でも珍しい発酵方法といわれます。
仕込み水で日本酒の味が変わる
昔から酒造を構える条件の1つは、酒造りに適した湧き水が近くにあるかどうかでした。灘や伏見が名醸地となりえたのは、豊富な仕込み水に恵まれていたことも大きな理由の一つです。灘の水は比較的硬度が高いので発酵が進みやすく、後味の引き締まった味になり、伏見の水は軟水で、発酵がおだやかでまろやかな味になるといわれます。原料となる米と同様に、仕込み水の水質は日本酒の味に大きな影響を与えます。
一般的に酵母の栄養源となり、発酵を促す成分である、ミネラルを豊富に含んでいる水が適しているといわれますが、酒造りの技術が発達し、仕込み水のミネラルを調整することが可能になってきたため、近年では地域にかかわらず酒造りが可能になってきています。
⑦搾り
完成した醪の中には、溶け切らなかった米粒などが残っています。それらを取り除き、固形部分と液体部分に分ける作業が搾りです。醪を搾ることを上槽(じょうそう)といい、この作業を行った酒が酒税法上で日本酒(清酒)と定義されます。
醪は発酵初期にはデンプンの糖化が進むために、泡が粘っこいですが、後半はアルコール濃度が上がるため、粘りを失い泡がすぐ消えるようになります。醪表面に泡がない状態が「しぼり」の目安です。
この間の醪の状態は日々刻々と変わり、天気や気温も毎年違う中で、計画通りの状態にして搾るために、杜氏は毎日醪の酒質検査を行い「しぼり」の日を見極めます。
上槽の方法にはいくつかの方法があり、搾り方によって酒の風味が変化するため、商品に応じて搾り方を変えることもしばしばです。
袋吊り
もっとも高級酒向きの搾り方とされています。
醪を入れた袋を紐でぶら下げ、そこから自然と滴り落ちる液体を集める方法です。ほとんど圧力をかけないため、搾り終えるまでに時間がかかる上に、他の搾り方に比べて得られる量が少なくなってしまいますが、袋吊りによって搾った酒は華やかさと繊細さを兼ね備えた香味になるので、限定品のような高級酒には最適です。
槽搾り
古くから一般的に行われてきた搾り方です。
槽とは搾り機のことで、醪を詰めた袋を槽の中に敷き詰め、上から押し付けるように圧力をかけます。槽搾りでは徐々に圧力をかけていくため、搾り始めと搾り終わりの酒質に差が出ます。搾り始めに出てくる酒は、槽搾りの中では一番フレッシュな味わいで「あらばしり」と呼ばれます。
その後の酒は「中取り」、最後が「せめ」となり、味は徐々に濃くなっていきます。
機械搾り
近年は槽搾りに代わって、自動圧搾機と呼ばれる全自動の搾り機が普及しています。
アコーディオン状にセットされた布の中に醪を入れて搾ります。一気に搾り切ることができ、酒質が均一になることが特徴です。
搾り方による酒質を見極める参考になるのが粕歩合です。粕歩合とは、仕込みで使った米の重量に対する搾り後に残った粕の重量の割合です。袋吊りのように圧力をかけずに搾った酒なら、粕歩合は高くなります。そして、粕歩合が高いものほどきれいな酒と言うことができます。