⑤酛造り
麹造りの次に重要と考えられているのは「二酛」、つまり酒母造りです。
日本酒のアルコール発酵は、酵母が糖を食べることによって起こりますが、一度に大量の米を発酵させるためには、酵母も大量に必要となります。
酒母(または酛という)とは、スムーズに発酵を行うために必要な酵母を純粋培養した、発酵スターターのようなものであり、蒸し米、麹、仕込み水を混ぜたタンクに酵母を加え、酵母を増殖させて造ります。
この時、自然に存在する酵母(野生酵母)や微生物、雑菌が入って酒の質が悪くなってしまうのを防ぐために必要なのが乳酸です。
酵母は他の雑菌がいるところでは負けてしまいますが、雑菌と違って酸性に強いという特徴を持っています。乳酸によってタンク内を酸性にすることで雑菌を駆逐し、酵母だけを純粋に培養することが可能となります。
速醸系酒母と生酛系酒母
酒母は大きく速醸系と生酛系に分けられます。
速醸系酒母(速醸酛)は、市販されている醸造用の乳酸を最初からタンクに添加して、酵母を投入する簡易的な方法です。
一方、生酛系酒母は乳酸を一から育て、そこから乳酸を得、酵母を投入する方法を取ります。
生酛系は酒母が完成するまでに30日近くかかるのに対し、速醸系は15日前後まで短縮できるため、現在では速醸系酒母の方が主流になっています。
生酛系酒母に含まれる酵母は、多くの微生物や雑菌に勝ち抜いてきただけに、旨みや香りが強い、濃醇な味になるといわれたり、安定した酒質となり2~3年間は十分に若さを保つといわれることから、今でも生酛系にこだわる蔵もあります。
生酛系酒母はさらに2つに分類することができ、蒸し米を櫂(かい)ですりつぶす作業(=山卸し)を行わずにつくる酒母を「山廃酛」、従来通り山卸しを行った酒母を「生酛」と呼びます。
日本酒の香りは酵母によって決まる
日本酒は米を原料としているにも関わらず、りんごや梨などのフルーツや花の香りをもつ日本酒が存在します。
この香りは酵母が米のデンプンからできた糖を食べてアルコールを生成する過程で一緒に生成するエステルという成分によるものです。
生成されるエステルの種類は酵母によって異なるため、使用する酵母によって日本酒の香りが変化します。
現在では日本醸造協会が酒造メーカーで使用され、優良とされた酵母および同時に開発した酵母を全国に頒布しています。
「協会系酵母」と呼ばれるもので、吟醸酒向きや純米酒向きなど様々な種類が存在します。また、全国の自治体も競うようにしてオリジナルの酵母の開発に取り組んでおり、新たな酵母が続々と誕生しています。
代表的な酵母の種類
■きょうかい6号
秋田の新政酒造由来の酵母。穏やかな香りと強い発酵力、淡麗な風味が特徴
■きょうかい7号
長野「真澄」ブランドの宮坂酒造由来の酵母。強い発酵力とオレンジのような華やかな香りが特徴
■きょうかい9号
「香露」を醸す熊本県酒造研究所由来の酵母。別名熊本酵母。華やかな吟醸香と程よい酸味が大吟醸酒づくりに向いているとされる
■きょうかい10号
東北6県の酒造場由来の酵母。香りが高く酸度が低く、純米酒と吟醸酒の両方に向く
■きょうかい14号
金沢国税局鑑定官室で育種。別名金沢酵母。酸が少なく、吟醸酒に向く
■きょうかい15号
秋田県の「AK-1酵母」を協会酵母として登録したもの。酸が少なく、上立ち香が高い
■静岡酵母
静岡県のオリジナル酵母。フルーティーできれいな酒質になる
■長野酵母
別名アルプス酵母。香り高く、吟醸酒造りによく用いられる。鑑評会を席巻し、話題に
■花酵母
東京農大が花から酵母を分離することに成功。ナデシコ・ツルバラなど花によって個性が違う酒になる