④麹造り
麹(こうじ)とは黄麹菌の胞子を蒸し米に繁殖させたものです。

アルコールは酵母が糖を食べることによって生成されますが、デンプンが多く糖類を含まない米は、そのままではアルコール発酵ができません。デンプン質はブドウ糖が固く連鎖した分子構造を取っていますが、麹はこれを分解(糖化)させるための多量の酵素を生成します。
また、麹はデンプン分解酵素だけではなく、タンパク質分解酵素も作り出し、米に含まれるタンパク質を旨みやコクのもとになるアミノ酸に分解します。その他にも様々な酵素が含まれ、酵母の栄養分になったり、香気成分を生成したりといった役割を果たし、出来上がった酒の風味を豊かにします。
「一麹、二酛、三造り」という言葉は工程順だけでなく、麹づくりが日本酒造りの土台であることを表しています。麹の出来具合によって、酛(酒母)や作り(醪)の出来が決まり、酒の品質が決まるからです。ではその麹はどのように造られるのでしょうか?ここからは、昔ながらの蓋麹法という方法について学習していきます。
蓋麹法
1、引き込み
蒸し米が30~35℃ぐらいまで冷えたら、麹室(こうじむろ)に運びます。この作業を引き込みといいます。麹室とは麹造り専用の部屋のことで、麹菌が繁殖しやすい温度30℃、湿度60%ぐらいに保たれ、温度・湿度を調整できる構造を持ちます。
2、床もみ・もみ上げ
蒸し米を麹室に運び入れ、種麹をふりかけてよく混ぜます(=床もみ)。種麹は黄麹菌の胞子で「もやし」とも呼ばれます。
種麹を混ぜ込んだら、ひとまとめにして積み上げ(=もみ上げ)、布をかけて保温し、そのまましばらく置きます。
3、切り返し
10~14時間程すると、蒸し米が固まりになります。米の温度を一定にするために、これをいったんばらばらにする作業を切り返しといいます。
切り返しのあとは、木枠に蒸し米を入れ、再び布で覆って保温します。
4、盛り
丸一日たち、固まりになった米を再度切り返しします。
この時点で麹菌がかなり繁殖しているので、麹蓋とよばれる小さな木の箱に小分けにします。この作業を盛りといいます。
5、手入れ・積み替え
麹蓋に盛られた麹は発熱するので、麹をかき回して米を広げたり(=手入れ)、麹菌の場所を適宜入れ替えて(=積み替え)温度と菌糸の育ちを均一にする作業を行います。
6、出麹・枯らし
約50時間して、栗のような香ばしい香りがしてきたら、麹室から麹を出し(=出麹)、暗く乾燥したところで20時間程度寝かせます(=枯らし)。
引き込みから枯らしまでは、丸3日ほどかかり、その間数時間おきに絶えず作業が続けられます。
「はぜ」が麹造りの鍵
麹米が繁殖した米の、白く見える部分のことを「はぜ」といいます。
米の中心部に菌糸が入った状態を「はぜ込み」といい、これによって麹の品質が評価されます。
はぜ込みが良いとされる麹は「総はぜ」と「突きはぜ」です。
米の表面全体を覆うように菌が繁殖した総はぜに対し、突きはぜは、表面はまばらな状態ながら、中までしっかり菌糸が食い込んでいる状態のものを指します。
総はぜの麹は酵素の量が多いので糖化力が強く、発酵が良く進んだ濃醇タイプの酒になります。
一方、突きはぜの麹は、米の溶け方がゆっくりになるため、時間をかけて発酵させる酒に向いています。突きはぜの麹で醸造した米は、淡麗で上品な味になるので、吟醸酒などの高級酒に利用されています。