Lesson5-1 温度を変えて味わう①

飲む温度が変わるとお酒の味わいも変化する

日本酒の味や香りは、温度を変えることでがらりと変化し、別の酒のようになります。
日本酒を冷やして飲むものを「冷酒」、温めて飲むものを「燗酒」と呼びます。このように温めても冷やしても美味しく飲める酒は珍しく、世界でも稀な存在です。

基本的には、温度を高くすると甘味と旨味が増しまろやかに、温度を低くするとすっきりとキレのある味わいになります。

一般的に純米酒や本醸造酒は燗酒に向くといわれます。純米酒などに豊富に含まれるコハク酸やアミノ酸などのうま味成分は、温めるとよりおいしく感じられるためです。
また、舌は温かいものを含むと甘みをより強く感じる性質があるため、もともと糖分の少ない辛口の酒は温めることで甘みやうま味が引き出され、よりおいしくいただけます。

舌が感じる味は「甘味」「酸味」「塩味」「苦味」「うま味」の5つといわれます。
甘味は低温ではあまり感じませんが、体温付近でもっとも強く、それ以上ではやや弱くなりますが、うま味も感じるといわれます。
酸味は酸の種類によって感じ方が異なり、リンゴ酸が多いと冷やしたほうが爽やかで温めると味がぼけてしまいます。一方で乳酸が多いお酒は冷やすととがった味になりますが、温めるとマイルドになってうま味に変わります。
塩味は温度が下がれば強く、上がればやわらかく感じます。苦味は体温を超えたあたりから急激に感じなくなります。
温度によって、どの味を強く感じるのかが異なるため、同じお酒でもその温度によって印象が異なるのです。お燗の温度が5℃違うだけで味の印象は変わり、20~40℃で一番敏感になります。

一般的には香りの高い吟醸酒は冷やして、旨口の純米酒は燗にして飲むと美味しいといわれますが、これは絶対ではなく、吟醸酒や大吟醸の中にも燗にすることで旨味が増し、まろやかな味わいになるものは意外に多く存在します。色々な温度を試してみて、自分に合う味わいを見つけることができるのも日本酒の魅力の一つです。

温度による呼び名の違い

日本酒は、5~15℃が冷酒、20~25℃が常温、30~55℃が燗酒に分類されますが、5℃ごとに細かく呼び名がつけられています。

5℃:雪冷え
10℃:花冷え

雪冷え」は約20時間、「花冷え」は約1時間冷蔵した、触ると明らかに冷たさを感じる状態。
純米大吟醸酒や吟醸酒など、フルーティーなタイプの日本酒にはこの飲み方がオススメ。ワイングラスなどで飲むと、きれいな香りがたち、味を細部まで味わうことができる。

15℃:涼冷
20℃:常温

涼冷え」は冷蔵庫から出してしばらく放置した状態。「常温」は冷蔵しない状態を指し、「冷や」とも呼ばれます。(※冷やとは冷酒のことを指すわけではないので注意が必要です。)
純米酒や本醸造酒、なかでも山廃・生酛などの旨みが強い酒は、味を柔らかくしてくれるこの温度帯向きの酒質が多い。陶器や磁器で飲むと美味しく味わうことができます。

30℃:日向燗
35℃:人肌燗
40℃:ぬる燗

30℃前後から日本酒に含まれている雑味成分が飛び、味が滑らかになってくるといわれ、お燗に適した純米酒などは40℃ぐらいから味や香りが膨らんできます、お猪口で飲むと美味しく味わうことができます。

45℃:上燗
50℃:熱燗
55℃以上:飛切燗

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注いだときに湯気が立つ45℃以上の状態。純米酒は45℃前後から辛くなりやすいので、注意が必要です。本醸造酒は耐熱性が強いので、味は崩れにくくインパクトが増します。こちらも同様にお猪口で味わうのがオススメです。

上記以外にも燗によって酒の状態を「燗映え」、燗をしてから冷めてしまった状態を「燗冷まし」、燗冷ましによって風味が損なわれた状態を「燗崩れ」と呼ぶなど、酒の温度に関する表現にた多彩なものが存在します。